肛門について
ヒトは消化器官の先端部分(口)から食塊として食物を摂取し、終点部分(肛門)から糞塊として老廃物を排便します。自然な状態の肛門とはやわらかくて常に閉じていて、排便時には必要なだけ開いて、我慢したいときは意識的に肛門を閉じることができるようになっています。
肛門疾患の症状
肛門は長さがわずか3㎝ほどの臓器ですが、先ほどのような繊細な機能を持つためとても複雑な構造をしています。したがって、その調節機能に少しでも不調をきたすと、色々な症状や病気が起こります。また、肛門自体には問題がないのに、身体のほかの部分の異常が原因となって肛門機能にもトラブルを引き起こすことがあります。肛門は日々の排便にかかわる大切な器官ですが、お尻を出して診察を受けることの恥ずかしさから医療機関を受診するタイミングが遅れて、症状が悪化してしまう患者さんも多くいらっしゃいます。 肛門疾患に伴う症状は以下のようなものがあります。
- 掻痒感(かゆみ)
- 痛み
- 出血
- 肛門の皮膚の湿疹
- 熱感
- 異物感(常になにか挟まっているような感じ)
- 硬結(固くしこりができること)
肛門の病気いろいろ
痔核の原因と治療
四足歩行の動物では、肛門は体の後方についていますが、ヒトは起立歩行を行い、また座位の姿勢を取るため、肛門は体の底の部分に位置します。そのため、静脈がうっ滞(血液がたまること)しやすい傾向があり、この状態が長く続くことによって静脈に血栓ができて、静脈炎を起こして腫れてきます。また、加齢や物理的な刺激によって、肛門の周囲のクッション状の組織が弱くなりたるんでしまうことによって、肛門の静脈・粘膜下組織・粘膜が一体となって“いぼ状”に突出してきます。これらの状態を痔核といいます。
痔核の分類
- 痛みを感じる部分(外側)に生じる外痔核
- 痛みを感じない部分(内側)に生じる内痔核
- その両方にまたがる内外痔核
痔核の原因は静脈のうっ滞や肛門クッション組織のゆるみであると述べましたが、日常生活の中で見ると、便秘や長時間の座位、飲酒、妊娠が誘因となり、また、肝硬変などの全身性の病気が関与しているとされています。
薬物治療
軽度の内痔核と外痔核に対する治療としては、坐薬や軟膏などの薬物治療が中心となります。
輪ゴム結紮法
薬物治療で改善しない内痔核に対しては、痔核の根元を輪ゴムでしばって除去します。
ジオン注射
最近では痔核の周りに硬化剤を注入して、内痔核を瘢痕化(大きなかさぶた)させる注入硬化療法という注射による治療法が広く行われるようになってきています。
当院でも局所麻酔下に10分程度で治療を行うことが可能です。
外科的手術
ぬり薬や注射による治療によって症状が改善しない場合は、最終的には外科手術(結紮切除術)の適応となります。
生活習慣へのアドバイス
痔核の悪化予防には、長時間にわたり車やバイク、自転車に乗ったり、同じ姿勢で座位を保ったりする生活を避けることが重要です。また、重い荷物を持つと肛門に負担がかかるため、重いものを運ぶ仕事をしている方で痔核の治療を行う場合は、作業を再開する時期をかかりつけ医に相談してください。
切れ痔の原因と治療
硬い便や太すぎる便、また下痢が続くなどの機械的刺激によって肛門外側の皮膚に傷がついて裂けることによって起こる病気を裂肛(切れ痔)といいます。切れ痔は①肛門の後ろの部分→②前の部分の順に起こりやすく、また、一般的に20代から50代の女性に多いされており、女子の乳児にもみられることがあります。切れ痔のなりはじめでは、自然に治る場合が多いのですが、再発を繰り返すことが多く、治癒と再発を繰り返すうちに肛門の外側に“見張りいぼ”と言われるポリープが生じることがあります。
切れ痔に対する治療は便の性状を整えるための緩下剤等の投与に加え、軟膏や坐薬による局所の薬物治療が基本となります。症状が進行し肛門が狭くなってしまった場合は、外科的な治療が必要になることがあります。
痔ろう(肛門周囲膿瘍)の原因と治療
肛門には粘液を生産する部分(肛門腺)が備わっており、この部分に便中の細菌である大腸菌が入り込んで感染を起こすと肛門周囲に膿瘍(うみ)が形成されます。通常、この膿は肛門自体から自然に排泄されることが多いのですが、身体の免疫力が低下しているときなどには、膿が多くなって肛門からの排泄だけでは処分しきれなくなってしまいます。この溜まった膿を外に出すために、肛門から皮膚に向かってトンネル状の通路が形成されることがあります。
この皮膚と肛門の間を通る瘻管を“痔ろう”といいます。
“痔ろう”は、ぬり薬や注射では治らず、外科手術による切開術が必要となります。
肛門疾患に対する検査と悪化防止方法
ここまで肛門の病気について解説してきましたが、おしりからの出血や痛みなどのトラブルは、じつは大腸がんによるものだったりします。また、クローン病や潰瘍性大腸炎などによっても痔ろうを起こすことがあります。そのため、おしりから出血する場合や、肛門の違和感や痛み感がある場合は肛門局所の病気のみならず、他の大きな病気を見落とさないようするために大腸内視鏡検査を行う必要があります。 また、肛門疾患を悪化させない方法として、
I. 排便の際に心がけること
- 便意が生じた時にトイレに行くようにする
- 無理な怒責をしない
- 短時間で排便を済ませる
- 水分を多めにとり緩下剤を適時、内服し便の硬さを調節する
- 硬いトイレットペーパーで無理に拭かない
- できるだけ決まった時間帯に排便を行う
II. 食生活で心がけること
- 決まった時間に1日3食、栄養バランスに偏りがない食事をとる
- 乳製品や適度な量の野菜、食物繊維をとる
- わさび、からし、香辛料などを過度に摂取しない
- アルコール摂取により下痢が起こる場合は飲酒を控える
III. 生活全般で心がけること
- 長時間にわたり車やバイク、自転車に乗ったり、同じ姿勢で座位を保ったりする生活を避ける
- 毎日入浴して、肛門を適度に洗い清潔に保つ
- 適度な運動は良いが、出血や痛みがある場合はスポーツを控える