クローン病とは?
消化管の構造は、内腔面から、粘膜、粘膜筋板、粘膜下組織、筋層、漿膜で構成されています。消化管の粘膜にとどまった発赤、浮腫、出血などの炎症が見られる状態を“びらん”といいます。さらに炎症が進み粘膜筋板まで達する状態を“潰瘍”といいます。クローン病は、下痢や血便を繰り返す炎症性腸疾患であり、潰瘍性大腸炎ととてもよく似ている疾患ですが、クローン病では消化管壁を全層性の傷害する“潰瘍” を発症することが多く、小腸・大腸を中心に口腔から肛門まですべての消化管に病巣を認め、腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態を生じるとされています。主として若年者に発症する頻度が高い疾患ですが、炎症が起きる原因は、まだはっきりとわかっていません。
クローン病の症状
腸管自体の異常
下痢、発熱、腹痛、肛門病変(痔瘻、肛門周囲膿瘍、裂孔)
*これらの症状が長く続くと腸閉塞、他臓器への瘻孔(外瘻は腸管と皮膚が交通すること、内瘻は腸管と腸管、膀胱や膣などが交通すること)の形成、出血などを認めます。
他の身体的な異常
口腔内アフタ、眼病変(虹彩炎、結膜炎、ブドウ膜など)、皮膚や関節への炎症、結節性紅斑、体重減少、貧血、低タンパク血症
クローン病の分類
クローン病は病変の広がる場所により小腸クローン病、小腸・大腸クローン病、大腸クローン病に分類され、小腸・大腸型が最も多く認められています。また、症状の出現パターンには、炎症、瘻孔形成、狭窄に伴う自覚症状があり、それぞれ厚生労働省のクローン病診断基準による重症度分類で、軽症、中等症、重症に分類されています。
クローン病の検査と診断
クローン病は厚生労働省が指定する特定疾患です。
診断基準
大腸内視鏡検査において特徴的な縦走潰瘍や敷石像を認める。
大腸内視鏡検査の際には組織を採取し、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を確認する。 また、感染症による腸炎でないことを確認するために結核検査、細菌検査や寄生虫検査などを行います。
クローン病の治療
クローン病は現状では根治的な治療方法がありません。したがって活動期における症状の緩和や状態の改善、適切な自己管理法の維持により病態をうまくコントロールして大きな合併症を回避することが大切です。また、クローン病は10代から30代の若年者に多く発症することから、学校生活や進学、就職、結婚、出産などのライフイベントに大きな影響を及ぼすため、患者さんご本人のみならずご両親に対しても、患者さんの病状と治療方針をよく説明することが大切です。
食事療法
一度に多くの食物を消化できないため、動物性の脂肪分や糖質の多い食事は、腹部膨満感や腹痛を引き起こしやすいとされています。脂肪を避けることで低栄養になることを防ぐために、魚の油やオリーブオイルなどの炎症を抑制する多価不飽和脂肪酸の摂取が勧められます。刺激物や香辛料、過去に摂取して症状が悪化したような食品は極力避けていただきます。また、中等症~重症の患者さんに対しては、経腸栄養療法として成分栄養剤や半消化態栄養剤を使用します。
I. 薬物療法
軽症や中等症の方
寛解導入療法を目的に、全身性の副作用が少ない副腎皮質ステロイドであるブデソニド、または、メサラジン(5-ASA)やサラゾスルファピリジン(SASP)などの5-アミノサリチル酸製剤を使用します。このメサラジン(5-ASA)は、特に小腸・大腸病変型に効果があるとされています。
中等症から重症の方
上記のほかに副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど)を使用し、症状が改善したら徐々に減量しステロイド製剤からの離脱を図ります。
ステロイドでの治療でも改善傾向を示さない方
免疫抑制剤(アザチオプリン、6-PMなど)を使用します。
II. 分子標的治療薬
体内の特定の分子を狙い撃ちし、その機能を抑えることによって、より安全に有効に病気を治療する目的で開発された薬です。クローン病では、潰瘍性大腸炎の治療でも用いる抗体製剤であるTNFα阻害薬(インフリキシマブ、アダリムマブ)や抗IL-12/23抗体(ウステキヌマブ)、抗α4β7インテグリン抗体などを使用していきます。
III. 外用薬
クローン病では肛門周囲の皮膚に炎症をきたし難治性の肛門潰瘍や肛門周囲膿瘍が生じることが多く認められます。洗いすぎると肛門の正常な脂質成分も流されてしまうため、肛門周囲の皮膚には撥水性の保護皮膚保護クリームを塗布するなどが勧められます。
*クローン病は、厚生労働省の特定疾患に指定されており、公費による医療費の助成があります。