ピロリ菌

ヘリコバクター・ピロリ菌について

ピロリ菌はヘリコバクター・ピロリが正式名称です。通常の顕微鏡では線維状のゴミのような形に見えますが、電子顕微鏡で観察すると、らせん状の4~5本の鞭毛を持つ非常に小さな細菌であることが分かります。ヘリコバクター・ピロリは特有の酵素(ウレアーゼ)を持っており、その酵素の働きによって自分の周りにアルカリ性のバリア(アンモニア)をつくることで、胃酸に満ちた胃内環境を中和することによって生息しています。ヘリコバクター・ピロリの感染はそのほとんどが大人から子供への家庭内感染であり、感染時期は主として5歳以下であり、いったん感染すると生涯にわたって感染が持続すると考えられています。

ピロリ菌が引き起こす病気

ヘリコバクター・ピロリの胃粘膜への感染は持続的な胃炎を引き起こします。これを背景として、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃ポリープ、胃がんなど様々な胃、十二指腸疾患の原因となっています。また、リンパ腫の一つである胃MALTリンパ腫の多くは、ヘリコバクター・ピロリ感染を背景としています。そして、最近、増えている機能性ディスペプシア(腹部膨満感や腹痛などがあるものの、これを説明できる異常や器質的異常を認めない状態)でも、ヘリコバクター・ピロリの除菌によって症状が改善する報告があります。
消化管以外の疾患では、特発性血小板減少紫斑病という出血傾向が見られる後天性血液疾患に対して、ヘリコバクター・ピロリ陽性を示す患者では、除菌によって血小板が増加し症状の改善傾向が認められます。

ピロリ菌の検査方法

胃内視鏡検査によって胃の組織を採取して行う検査と、胃内視鏡検査を必要としない検査に分けられますが、健康保険で除菌治療を受けていただくためには、胃内視鏡検査が必要です。

I. 胃内視鏡検査を使用する方法

  • 迅速ウレアーゼ試験
    ヘリコバクター・ピロリが持つ酵素の働きで生じたアンモニアにより、検査薬の色調変化の有無を見る検査です。短時間での判定が可能ですが、組織をとった部分にヘリコバクター・ピロリがいないと陽性にならないことや検査薬の色調変化が人の見た感じによって判断が異なるなど、他の検査との併用することが勧められています。
  • 検鏡法
    内視鏡検査にて採取した組織を標本にして顕微鏡で確認し、ヘリコバクター・ピロリの有無を確認します。

当院の胃カメラ検査について

II. 胃内視鏡検査を使用しない方法

  • 抗体検査法
    ヘリコバクター・ピロリに感染することによって生じる抗体(抗ヘリコバクターピロリ抗体)の有無を血液や尿を用いて調べる方法です。簡便な方法ですが、過去の感染による影響があり、現時点での感染状況の判断には不向きです。
  • 尿素呼気試験
    検査薬の服用前後の息(呼気)を採取して診断します。検査薬に含まれる尿素中の炭素をアイソトープで標識し、ヘリコバクター・ピロリによって分解され生じる呼気中の二酸化炭素濃度を分析することで判断します。精度が高く、感染診断のみならず除菌効果判定にも役に立ちます。
    ただし、保険制度上、胃内視鏡検査と同時に行うことができず、胃内視鏡検査を希望される場合には別の日に受診して頂く必要があります。
  • 糞便中抗原検査
    糞便中のヘリコバクター・ピロリを調べる検査です。抗原測定キットを用いて、ヘリコバクター・ピロリ抗原との酵素反応による発色で検出します。とても正確な検査方法であり、感染診断と除菌効果判定に用いられています。

ピロリ菌感染の除菌療法

2013年からヘリコバクター・ピロリ菌感染胃炎に対する保険治療が認められ、感染者全員が除菌治療の対象となりました。胃内視鏡検査で慢性胃炎と診断された場合、保険でピロリ菌の検査を受けることができます。また、この検査によりピロリ菌の感染が確認されたら、除菌治療も保険治療の適応となります。
ピロリ菌の除菌治療は、一次除菌治療としてPPI、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤を1週間、1日2回内服します。一次除菌で治癒しない場合は、二次除菌として、PPI、アモキシシリン、メトロニダゾールの3剤を1週間、1日2回内服します。2015年に発売された新しい機序のPPIであるボノプラザンは、一次除菌、二次除菌ともに90%前後という良好な除菌成績を示しており、ほとんどのピロリ菌感染症は二次除菌までの治療で除菌が可能となりました。

*除菌ができると胃の粘膜の慢性活動性胃炎が消退するため、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の再発は著明に抑制され、胃過形成ポリープも退縮します。また、胃がんに対する胃切除術後に残った部分に新たな“胃がん”が発生することがありますが、ピロリ菌の除菌治療により新たな胃がんの発生率が下がることが明らかになっています。

除菌治療の流れ

1薬剤の服用

ピロリ菌を除菌するための2種類の抗生剤に加えて、胃酸分泌抑制剤を服用します。その期間は1週間です。内服期間中は、薬物の効果を阻害しないように胃粘膜の攻撃因子となるストレスを減らすために、喫煙や飲酒を控え、規則正しい生活を送っていただくように説明させていただいております。内服薬の副作用として、味覚障害(約30%)、下痢(約13%)、蕁麻疹(約5%)、肝機能障害(約3%)などの症状がみられる可能性があります。服用中にこのような副作用が起こったら、すぐにご連絡下さい。また、アレルギー症状である蕁麻疹や皮膚の腫れ、息苦しさ、咳、喘息発作などか現れた場合は、すぐに服用を中止してご連絡ください。

2除菌効果判定

1回目の除菌治療による治療の成功率は70~80%です。ただし、除菌が成功したかどうかは、服用から8週間以降にならないと正確に判断できません。そのため、服用が終わった2ヶ月以降に血液による抗体検査によって除菌判定を行っております。

32回目の除菌治療

1回目の除菌治療で除菌に失敗した場合は、ご希望があれば健康保険を使用した2回目の除菌治療が可能です。1回目の除菌治療が不成功に終わった原因として、抗生剤であるクラリスロマイシンの耐性菌の出現が報告されており、2回目の除菌治療では、抗生剤をメトロニダゾールに変更します。服用期間と方法は、1回目の除菌治療と同様です。

42回目の除菌効果判定

1回目と同様にお薬の服用が終わった2ヶ月以降に血液による抗体検査によって除菌判定を行っております。1回目と2回目の除菌治療を合わせた成功率は、97~98%と    いわれています。除菌に失敗したケースでは、3回目以降の除菌治療も可能ですが、健康保険は使用できず自費診療での治療となります。

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